「おはよー」

すっかり慣れたようには有川家のドアを開ける。
リビングの戸を開けるとカウンター式のキッチンで譲が料理をしているのが見えた。

先輩、朔、お早うございます」

「おはよう譲くん。みんなはまだなの?」

「ああ…多分そろそろ起きてくるんじゃないかな」

言うが早いかどやどやと賑やかな声。最初に戸を開けたのは景時で、二人を認めると笑顔で声をかけた。

ちゃん、朔、おはよー」

「お早うございます景時さん」

笑顔でそれを返せば後から入ってきたみんなも口々に朝の挨拶を口にする。
リビングのテーブルに並んだ食器が朝の始まりを告げた。





「はい先輩、どうぞ」

譲が紅茶をおき、ソファーに座るの隣へ着く。
全員分用意された食後のお茶には労いの意を込めて有難う、と言った。
少し離れた所から見てる、赤い瞳には気付かずに。
するとの携帯がメールの受信を告げて震えた。
ポケットから携帯を取り出しボックスを開けばそこには

from ヒノエ

の文字。
今同じリビングにいる彼から何故。
思わずはヒノエを見ると手持ち無沙汰に携帯を弄るヒノエと目があった。ぱちんとウインクを寄越してヒノエの目はまた携帯に戻る。
カチカチと何かを打つと携帯をポケットにしまい込みリビングを出た。
の手の中の携帯がまたメールの受信を告げる。
開けばまたヒノエからで、は一通目のメールから開いた。

―――――――――――002
from ヒノエ
件名 無題
本文
姫君、こっち見て
―――――――――――
―――――――――――001
from ヒノエ
件名 逢い引きしようか
本文
誰にも内緒で洗面所の方までおいで。
来るも来ないも姫君の自由だけどね。

ヒノエ
―――――――――――

―――――――――――001
from ヒノエ
件名 逢い引きしようか
本文
誰にも内緒で洗面所の方までおいで。
来るも来ないも姫君の自由だけどね。

ヒノエ
―――――――――――

ずるい。とは思った。
行かないわけなんてない、のに。

携帯をポケットにしまい込みは立ち上がる。
隣の譲が「雪沢先輩?」と問いかけたけれど軽く笑顔で「御手洗い借りるね」と言ってリビングを出た。

ぱたん…。
リビングと廊下を隔てるドアを閉めると廊下はひんやりとした空気のまま静まり返っていた。
真っ直ぐ廊下を歩き洗面所の方まで行く。ヒノエはいったいどこにいるんだろう。
廊下にはの足音と廊下の床板の小さな鳴き音。
ヒノエの気配はまるで無かった。
洗面所について顔を覗かせてみる。

「捕まえた」

横からのびてきた腕にあっさりとは浚われてしまう。

「っ…ヒノエくん」

「来てくれたんだね、姫君」

ヒノエが隠れていたのは洗面所の中の小さな死角。人2人入るのがやっとな位の其処にを奥にして壁へ追い詰めた。

「ふふっこういうのも、たまにはいいね」

「え…?」

「秘密の逢い引きっていうのも、なかなか洒落てるよ。そうは思わない?

「んっ…わかんな、んっ…」

まるでペットにでもするような小さなキスをヒノエは頬に、額に、瞼に鼻に落としていく。
擽ったそうに身を捩るに気付かない振りをして、両腕を腰に回して引き寄せて。
ちゅっとわざと音を立てて唇に口付けたと思ったら形を確かめるように焦れった
く指でなぞり、我慢できないように荒々しい口付け。
それには翻弄されて段々と何も考えられなくなっていった。

「ヒノ…エくん」

「可愛い。

最後に鼻の頭に口付けを落としてヒノエはを解放する。名残惜しそうにゆっくりと。

「残念だけど此処までかな。あっちにそろそろ戻らないと怪しまれそうだしね。
続きはまた…ね」

ヒノエはウインクを送ってリビングへと戻る。
廊下はまたひっそりと静まり返りはずるずると座り込んだ。

「も…馬鹿…」

真っ赤な顔を両手で包んで一刻も早くこの熱が冷めるようにとは祈っていた











刹那の駆け引き 秘密の逢い引き

(二周年ありがとうございます!)